娘が赤ちゃんの頃、九州の作家さんにウォールナットの小さな椅子をつくってもらいました。
手作り家具 木工房シンプル 普段使いの家具を作ります 福岡県北九州市
はじめは真っ白だったのが、年月を経て良い色になりました。
汗や涙や様々なもの(笑)が染み込み、さらに時間が仕上げをしてくれました。
楽しいことも悲しいことも、たくさんの思い出が刻印されています。
当時、娘が何か危ないもので遊んでいたのだったと思います。
私が咄嗟にそれを取り上げてしまい、手の届かない棚に置いたことがありました。
娘は、顔を真っ赤にして怒り、泣き叫びました。
そして、この椅子をちらっと見たかと思うと、さっと駆け寄り、重かっただろうに両手で抱え、泣きながら、涙と鼻水を流しながら、懸命にヨチヨチ歩きでその棚に向かっていきました。
この椅子ぐらいでは全然届くはずもないのに。
今でも、あの時のことを思うと胸が痛みます。
まったく同じ色かたちの椅子があったとしても、見分けがつくはずです。
過去の記憶も、今の記憶も、もしかしたら娘とその子どもとの間に育まれる、未来の記憶までも、この椅子は同時にまとっているような気がします。
家を建ててからは、この小さな椅子だけでなく、床・壁・天井・テーブル・建具・・・あらゆるところに、そんな泣き笑いの記憶が刻まれてきました。
ようやく、単なる「建物」から有機的な「家」になってきたような気がします。
家づくりには、様々なデータがついてまわりますね。
私も、特に構造や環境性能についてはデータを大切にしています。
ただ、それを追うことに疲れてしまい、結果、家づくりそのものに疲れてしまっている方にも時々出会います。
データは家づくりのほんの一部に過ぎないこと、家は言葉や数値にできない多くのもので出来上がっていることを思って、少しだけ肩の力を抜いてみるのも良いかもしれません。
素敵な「家」がたくさん育っていきますように。