人と栖と

小声で語る 小さな家と本と音楽のこと

「さて、久しぶりにお得をみすみす逃してみるかな。」

伝染るんです。をご記憶でしょうか。
1989年から1994年まで「週刊ビッグコミックスピリッツ」(小学館)に連載された、4コマの「不条理ギャグ漫画」ですね。

伝染るんです。①」 吉田戦車  小学館

’75年は・・・というこの帯や、落丁のような装丁も話題になりました。

 


先生などと呼ばれているおじいさんが登場する回がありまして、その中で一番好きなのが、

「さて、久しぶりに取り返しのつかないことでもするかな。」 

先生がそう呟きながら、

ビデオデッキ(VHS!)の蓋を開け、

中に納豆をこぼして ・・・、

「あーっ!! とっとりかえしのつかないことを!」と叫ぶ

というものです。


30年以上たった今でも、コーヒーを飲みながらパソコンで図面を描いているときなど、あの「先生」の「さて、久しぶりに取り返しのつかないことでもするかな」が頭をよぎってしまい、一瞬コーヒーカップが傾きかけて、「・・・・・あっ、違う違う」みたいな感じで我に返るということを繰り返しています(笑)。

 

そんな影響もあるのかないのか、時々実行することがあります。

 

「さて、久しぶりにお得をみすみす逃してみるかな。」

 

目の前にある「お得」を、お得だとわかっているのにあえて、「みすみす」逃してしまうという謎の苦行です。

例えば、

・購入予定のPCに期間限定で有料のアプリが入っていて、お値段据え置きという場合、(もともと購入予定だった)同じ価格のアプリが入っていない方を買う。

・800円のものを買おうとレジに持って行ったとき、「1000円以上お買い上げの場合3割引きになるので、あと200円分なにか足したらトータルでも700円になってお得ですよ」などと言われても、ダンディーに(笑)そのまま800円の買い物をする

・「今月中に申し込んだらポイント還元」だったら、来月に申し込みをする。もしくは申し込まない

という具合です。

 

何故そんな事をしているのか自分でもよくわからなかったんですが、不思議なことに、数年続けているうち何だか心身がすっきりしてくるというか、世界がシンプルになるような清々しい心持ちになってくるのに気が付きました。

娘も漫画を買うときに「これとこれを合わせて買えば、期間限定特典が・・・」などと四六時中頭を悩ませていたのですが、この「お得をみすみす逃せ」の家訓(笑)が体得できたのか、最近では、憑き物がおちたようなさっぱりした表情で買い物をしているようです。

 

「お得をみすみす逃す」こと。

それは以前の私にとって「取り返しのつかないこと」であり、あり得ないことで、何か「負けた」ように感じたものです。

ところが、「負けるが勝ち」的なものなのかもしれませんが、トータルで「お得」をしているような気がしないでもありません。

こういうものは、行動経済学などで何か定義されているんでしょうか。

たぶん無いですね。

 

伝染るんです。」では「不条理」が面白かったんですが・・・。

その不条理が発酵したような、「さて、久しぶりにお得をみすみす逃してみるかな」が謎のパラダイムシフトを起こして、自分の中では「条理」になってしまいました。

 

性格的に絶対できなかった「さて、久しぶりに泣き寝入りでもしてみるかな。」もいつかやってみようかな。

それは無理かな・・・。