人と栖と

小声で語る 小さな家と本と音楽のこと

刹那の蝶と一分間の白昼夢

この時期になると、娘の幼稚園最後の日を思い出します。

 

その幼稚園では、卒園式が終わっても「預かり保育」の期間が3月31日までありました。

「涙の卒園式」後にまた会うのは、何だか気まずくないのかなとも思ったのですが・・・。

(送別会で盛大に送り出された後、駅のホームでまた会いそうになると、こっそり物陰に隠れますよね。)

それはさておき、その「預かり保育」に(特に必要もないのに)娘は通っていました。

幼稚園が好きで、友達と遊びたかっただけなのです。

始終幼稚園を脱走して(隣の墓地で遊んで)いた私の子とは思えません(笑)。

 

預かり保育もついに最終日となり、夕方娘を迎えに行きました。

先生方や他の保護者の方に挨拶をして解散になったのですが、子どもたちは皆、随分あっさりとした別れ方をしていて驚きました。

「じゃあ、またね。」

明日もまた遊べるかのような、今日と同じ明日が来ることを信じ切っているような、さばさばとした別れでした。

隣の市の幼稚園だったので、小中学校も別ですし、おそらく一生会わない子もいるはずなんです。

「もっと別れを惜しめよ!」

心の中ではそうツッコんでいたのですが、子ども達にはそんな感覚は無いように見えました。

 

駐車場に向かおうとした時です。

背後でシュッという音と軽い機械音がしました。

振り返ると、芝生の広場でスプリンクラーが作動し始めたようで、水しぶきが舞いあがっています。


その瞬間、帰りかけていた子ども達が(もちろん娘も)いっせいに広場に向かって駆け出しました。

本当は別れを惜しんでたんだよね。

子ども達なりにこらえてたんだね。

小さな姿がくるくると踊るように駆けまわっています。

光る水しぶきのなか、歓声が茜色に溶けていきました。

 

1分程の短い間だったと思います。

 

私はカメラを抱えたまま、シャッターを切るのも忘れて、その光景を眺めていました。

 

過去一番の美しい光景でした。

 

写真という証拠が無いのをいいことに(笑)言うわけではないのですが、西日に染まる水しぶきの周りには無数の蝶が舞っているようでした。

 

視界は霞んでいましたが、私が見たのは確かに、この瞬間を楽しみ尽くしたいと願う蝶たちでした。


今でもあの蝶のことを思います。

 

そして、あの刹那のユーフォリアと一分間の白昼夢を、どこかに刻んでおきたいと思うようになりました。

 

それで、一分間の音をつくってみました。

音の「心象スケッチ」のようなものです。

 

土のなかから土器をそっと掘り出すように、あの日心の中で鳴っていた音を拾い集めました。

つくったのは昨日ですが(笑)、どうやらあの時こんな音が鳴っていたようなのです。

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