人と栖と

小声で語る 小さな家と本と音楽のこと

すきとおったほんとうのたべもの

ご無沙汰しております。

 

宮沢賢治注文の多い料理店 序」の朗読音源をつくっていました。


この「序」は、宮沢賢治の初めての、結果的には唯一の童話集「注文の多い料理店」の冒頭に綴られているものです。

 

これらのわたくしのおはなしは、みんな林や野はらや鉄道線路やらで、虹や月あかりからもらってきたのです。
 ほんとうに、かしわばやしの青い夕方を、ひとりで通りかかったり、十一月の山の風のなかに、ふるえながら立ったりしますと、もうどうしてもこんな気がしてしかたないのです。ほんとうにもう、どうしてもこんなことがあるようでしかたないということを、わたくしはそのとおり書いたまでです。

これは賢治さんの、物語を紡ぐ創作の秘密であり、

 

わたくしは、これらのちいさなものがたりの幾きれかが、おしまい、あなたのすきとおったほんとうのたべものになることを、どんなにねがうかわかりません。

賢治さんの、決意表明のマニフェストでもあるのだと思います。


以前、建築の設計をしていました。


与条件、必要な空間、法規、構造強度など、複雑な連立方程式をひたすら解いていくのですが、それだけでは、どうしても思うような建築は設計できません。
そんな時は、多くの設計者がするように敷地をぐるぐると歩き回ったり、ぼんやりしたりします。


朝昼晩、晴れた日、雨の日、可能なら春夏秋冬。
そんなことを繰り返していると、もうどうしても、こんなものが建ってほしいと思うようなイメージが、地面から生えてくるような建築のイメージがわいてくることがあります。


分野は違いますが、注文の多い料理店 序」を読むと、そんな、その「場」から何かを掴もうとする開いた心持ちが感じられますし、また、同志であるような、少しうれしい気持ちにもなります。

 

紡がれている言葉の意味やリズム、ひとつひとつにあわせて音をつくってみました。

あっているのかどうかはわからないのですが、「もうどうしてもこんな気がしてしかたないということを、わたくしはそのとおり」つくってみたという感じです。

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