20世紀初頭のニューヨーク。
貧しいタイピスト、ミス・リースンが部屋を探しにきます。
大家のパーカー夫人は、まず一階の二間続きの客間を見せますが、貧しい職業婦人であるミス・リースンはその家賃を払えません。
「もっと上の、もっと安い部屋をみせてください。」
二階、三階とあがっていくにつれ、パーカー夫人の機嫌は急降下、そして案内を放棄。
引き継いだ女中さんに、天井裏の穴倉に放り込まれます・・・。
「上に行くほど偉い」みたいな価値観が逆転しています。
エレベーターがないからですね。
それはさておき、この天井裏の穴倉にも、たった一つの利点がありました。
「小さな明かりとりの天窓のガラスごしに四角く無限の蒼空が見える」のです。
彼女はそこに見える、じっと動かない星をビリー・ジャクスンと名付けます。
ある日、彼女は天井裏のベッドで、栄養失調のため意識を失います。
その彼女を救ったのは・・・・。
という物語です。
12ページほどの短編ですが、さすがはO・ヘンリという名作です。
物語中盤で、すごく気に入っている部分があります。
ある夏の宵、パーカー夫人の家の間借人たちが、いつものように玄関の階段に腰かけていたとき、ミス・リースンは、天空を見あげて明るく笑いながら叫んだ。
「まあ、あそこにビリー・ジャクスンがいるわ!こんな低いところからでもみえるんだわ」
大久保康夫 訳 新潮文庫 O・ヘンリ短編集(三)より
天然っぽいセリフのように聞こえますが、ちょっとわかります。
「何効果」と呼ぶのかわかりませんが、空が天窓の枠で縁取られることで、月や星が手の届きそうなほど近く感じるんです。
月食のときなど、角度によっては家の中で寝ころびながら見ることができて、なかなか乙なものです。
天窓は、雨仕舞に注意を払った設計・施工をすれば、何ものにも代えがたい恵みを生活にもたらしてくれます。