人と栖と

小声で語る 小さな家と本と音楽のこと

「うたのおにいさん」の「本当は・・・」を、ずっと考えていた

(お金をとる)放送局に勤めていた20代。

自分には不向きな世界でストレスだらけだったけれど、ただ一つの癒しのお仕事、

おかあさんといっしょ

子ども達の笑顔に、自分の汚れた心が洗われていくようでした。

 

あまりそんな機会は無かったのですが、一度だけ、出演者、スタッフ揃っての打ち上げに参加しました。

たまたま「うたのおにいさん」の近くに座りました。

どのくらい直接お話できたのか覚えていないのですが、(大きな声が出ないので宴会では「負けて」しまうのです)

おにいさんの語った一言を印象深く記憶しています。

 

「本当は・・・」

少し照れていました。

「演歌歌手になりたかったんですよ・・・。」

 

そのギャップに驚きました。

なりたかったというより、一度演歌歌手としてデビューされていたとのことでした。

その後、オーディションを受けて「うたのおにいさん」になったそうです。

 

私には「おかあさんといっしょ」の「うたのおにいさん」は天職のようにみえました。
輝いていました。

実際、その後「うたのおねえさん」とともに大人気になり、

ある年齢以上の人は誰でも口ずさめる大ヒット曲も生まれ、

紅白にも出場しました。

本当は演歌であのステージに立ちたかったのかな。

 

私は勢いでそこを辞めてしまったので、その後お会いする機会はありませんでしたが、何となくおにいさんの「本当は・・・」がずっと気にかかっていました。

 

その後十年以上を経て、おにいさんが大変重い人生を背負ったことを報道で知りました。

それでも、おにいさんはそのお人柄のまま、誠実に真摯にその事実に向き合い、数年後また歌の世界に戻られました。

変わらず、その歌で、多くの人に愛されているようです。

歌は演歌ではありません。

 

おにいさんの「本当」はシンプルに、「歌う」ことだったんだと思います。

「本当」は歌で人の心を温めること。

 

おにいさんの言葉を通じて、ずっと自分の「本当」のことを考えていました。

 

子どもの頃から抱えていた眼のトラブルが悪化して、図面を描くことが困難になってしまいました。

本当は、図面をバリバリと描いて

本当は、自他ともに認める建築家になって

本当は、世界中を駆けまわって

本当は、後世に残る建築を残したかった。

リハビリ次第ですが、少し難しそうです。

 

ただ、おにいさんのはにかんだ笑顔を思い出すたび、自分の本当って本当なんだろうかって考えます。

もし、おにいさんの「本当」が「演歌歌手」ではなく、「歌う」ことだったなら・・・。

自分の「本当」は、ただ

「美しい空間をつくること」、なのでは。

もう建築に拘る必要はないのかも。

空間を満たすものは、音や光、香りや詩であってもいい。

本当は、何か美しいものを残したい。

多くの人の目や耳に触れなくても構わない。

誰にも知られなくていいから、

本当は、美しいものをひっそりと、この世界に残して、ここを去りたい。

 

図面を描けない自分に、何か月も落ち込んだままでいたけれど、

そろそろ切り替えないと。

もう顔を上げよう。

 

途中から新年(遅)の抱負になってしまいました。