平野啓一郎さんの「マチネの終わりに」は、美しい恋愛小説であるのと同時に、私にとっては一級の「ギターの物語」でもあります。
ギタリスト蒔野さんの運指の滑らかさ、音の一粒一粒が活字の間から伝わってきます。
序から最終章までサントラのようにギターの音色が響き続ける、こんな読書体験は初めてで、音楽が、ギターが好きで本当に良かったと思わせてくれた小説です。
私にとってのハイライトは、パリの洋子さんのアパルトマンで、ジャリーラさんのために、蒔野さんがガヴォット・ショーロを演奏する場面です。
この物語中で(ラストシーンと並んで)最も幸福に満ちていると感じるシーンで、あまりにも好きすぎて同じところばかり読んでいるせいで、演奏しているのが自分なのではないか、かつてこんなことがあったような気がする(絶対ありませんが・・・)、というところまで、記憶がバグってしまいました(笑)。
そんなこともあり、嘘の記憶と少しでも整合性をとるために、そのガヴォット・ショーロを練習しています。(だからといって整合性はとれませんが・・・)
この曲は学生時代ちょっとだけ練習したことがあるのですが、もう一度やり直しです。
ガヴォット・ショーロはもともと大好きな曲なのですが、この「マチネの終わりに」でさらに愛すべき大切な曲になりました。
映画をまだ観ていないからかもしれませんが、私のなかでは蒔野さんはギタリストの福田進一さんそのものでした。
あとがきに、福田さんに構想の段階から相談にのってもらったとあり、驚きましたが、それを知る前から、私の中では、ギターを弾いているのは、第一章からずっと福田さんでした。
大昔、福田さんによる公開レッスンを見学したことがあり、目の前で聴いた音色の美しさと、ご本人のカッコよさに、打ちのめされたことを思い出しました。