人と栖と

小声で語る 小さな家と本と音楽のこと

家を持参して土地を探す

東京に住んでいる頃、土地探しをスタートしました。

長野・山梨あたりから関東・東北・北海道と、日本の東半分、100か所近くの土地を長い時間をかけて見て回りましたが、紆余曲折あって(ここが長いのですが・・・)、結局、私の地元に土地を求めて家を建てました。

 

建築だけでなく、少しだけ不動産関係にも関わっていたのですが、今日は全くのユーザー側の視点で自分の考えを書いてみたいと思います。

 

光や風などの自然環境、交通・電気・ガス・水道などのインフラ、近隣の施設など、様々な敷地の現状を与条件として、「最適解」としての建築を設計するのが、ある意味建築設計の王道なのだと思います。

建築士としては本当にそう思います。

ただ、すでに土地を所有している人は別として、これから土地を探して、そこに家を建てようとする人にとっては、なかなかの問題があります。

土地を探すときに「よりどころ」が無さすぎるのです。

私自身の経験を思い出しても、土地探しの最中にある、いろいろなプレッシャーや疲労の中で、あわてて、何となく良さそうな土地に決めてしまいがちです。

それで、契約を済ませてしまってから、家の設計にとりかかってみると、その土地では自分の理想の家は建てられないということが往々にしてあります。

それも家づくりの、物語の一部なのかもしれませんが、もう少しなんとかならないものでしょうか。

 

私は、土地探しの前に、「先に家を設計する派」です。

そんな派閥があるのかどうかわかりませんが(ないと思います)、私は途中からそのように方針転換しました。

簡単な図面や、場合によっては模型を作ってしまって、それが建てられる土地を探すようにしたのです。
もちろん、完全に「はまる」土地などそうそうありませんから、東西南北を反転したり、一部足したり引いたり、法規制に適合させる変形などの操作をしながらになりますが・・・。

ただ、そうすると自分にとって必要な敷地の条件が、圧倒的にクリアになるのです。

もちろん、土地取得後、改めて本腰を入れて設計することは言うまでもありません。

 

もし、土地探しに行き詰っている方がいたら、こんな発想の転換も良いのではないかと思います。
お近くの建築士に相談してみて、できたら土地探しの段階から関わってもらうのも良いかもしれません。
ダメだったら私に相談してください(笑)。

 

前に書いたように、与えられた条件の中で最適解を出すのは設計の醍醐味でもあります。困難な制約があるほど、力がみなぎってくるようなところもあります。

私はそうです。

ただこれから家を建てる人にとっては、「理想の家を、それに適した土地に建てる」のが「最適解」であるはずだと思います。

 

私がこんな考えになったのは、建築の勉強を始めたころ読んだ「小さな家」という本の影響です。

近代建築の巨匠、ル・コルビュジエが両親のために設計した小さな家について書いたエッセイです。

最後にほんの一部ですが引用します。

「手袋に手を入れるように」というところが大好きです。

そして、いつもこの家の図面をポケットに入れて持ち歩いた。
敷地に先だった設計ですって?。そう、その通り。この家に適した敷地を見つける計画だったのだ。
(中略)
ポケットに図面をいれて、長い間敷地を探し歩いた。いくつかの候補地を検討したが、ある日、丘の上からまさに思い通りの敷地を見つけ出した。
(中略)
このプランを敷地に合わせてみると、まるで手袋に手をいれるようにぴったりとしていた。

    ル・コルビュジエ 著  森田一敏 訳    「小さな家」 (集文社) 

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