人と栖と

小声で語る 小さな家と本と音楽のこと

薄氷のルーフトップ・コンサート

小学生の頃、はじめて買ったLPはビートルズの「LET IT BE」。

当時、自分のアルバムは一枚しかなかったので、こればかり聴いていました。

最初に見たものを親だと思ってしまうように、私にとっては「LET IT BE」がビートルズ

その後さまざまな音源や映像でこの時のセッションの一部、「ルーフトップ・コンサート」の存在を知りました。

ドキュメンタリーの撮影も兼ねて、真冬のロンドン、アップル・コア本社の屋上で行った約40分のライブですね。

www.youtube.com

 

時々、私が図らずも実施「してしまった」、雪の「ルーフトップ・コンサート」のことを思い出します。

 

季節外れの話なのですが、記録しておかないと忘れてしまいそうで・・・、というか記憶も、もう半分くらい嘘なのではないかと思うくらい忘却の彼方に去りつつあります。

 

 

90年代の中盤、(お金をとる)放送局に勤めていた頃。

バブル崩壊後とはいえ、まだその残り香のあった時代です。

ある北海道のスキーリゾートとタイアップしてイベントを実施することになり、その中でFM番組の公開収録というかたちでちょっとしたコンサートを企画しました。

 

ゲストは清水ミチコさんと、デビューしたてのゴスペラーズさん

 


その冬の北海道は、戦後何番目かの記録的な大雪でした。

ただ、どんなに雪が降っても、そこはスキーリゾート。

大丈夫・・・だと思っていたのですが。

 

そして、その大雪の中、近隣の海岸沿いの道路で、胸がつぶれるような悲しいトンネル崩落事故が発生しました。

 

イベント数日前の事故でした。

 

さすがにイベントは中止だろうと思っていたのですが、協議の末、予定通り実施することに。

 

気持ちを入れ替えつつ、気を引き締め、現地に向かうと・・・。

 

ステージは雪に埋もれていました。

 

そのシーズンは、スキー場といえども除雪できないほどの大雪だったんです。


中止か・・・。

告知もしているし、もちろんゲストもブッキング済。

 

「終わったな」と思いながら、360度ぐるっと見回した時、ふいにビートルズの「ルーフトップ・コンサート」の風景が頭をよぎりました。

 

エントランスを覆うように「いい感じ」の大きな庇があるではありませんか。

 

あそこで「ルーフトップ・コンサート」をやろう。

 

もう悩んでいる時間はありません。

技術さんやホテルの方に猛スピードで交渉して、即セッティングにかかりました。

相当危険です。

今ならたぶん許可してもらえないと思います。

 


素敵な、雪の「ルーフトップ・コンサート」でした。

 

視点が高いので、広くゲレンデが見渡せますし、天然のエコーで歌声もより響き渡って聴こえます。

清水ミチコさんやゴスペラーズさんには失礼なことをしてしまったかもしれません。

でも気持ちよく歌ってくださったんではないかと、(勝手に無理やり)思っています。

お客さんも楽しんでいるようでした。

私はというと、「元々こうするつもりだった」感じを出しながら、内心は薄氷を踏む思いでこのステージを見つめていました。

 

清水さんは確か日帰りをされて、ゴスペラーズさんはそこにそのまま宿泊。

一応食事会のようなものはしましたが、何だか堅苦しくて可哀そうな気がしたので、「せっかくだからスノボでもどうですか」と提案をすると、時々アメリカやオーストラリアのニュース映像で見る「転がり草」のように、ゲレンデに転げ出ていきました。

まだ何人かは学生さんだったように記憶しています。

 

思い出すといろんなところが痛むけれど、それでも自分のやった「ルーフトップ・コンサート」。

楽しくて、苦しくて、嬉しくて、悲しい、不思議な記憶。

夢だったような気もします。

辞表を出した勢いで、段ボールごと資料を焼いてしまったので、写真も何も残っていません。

Wikipediaなどで清水さんやゴスペラーズさんの記載をみてもこの小さなステージの事はもちろん載っていません。

それこそ、全部嘘なのではないかという気さえします。

 

清水ミチコさんとゴスペラースさん。

あの日の事、覚えていてくれるかな。

もしそうだったら、嬉しいな。

 

ジョンは「ルーフトップ・コンサート」をこんなジョークで締めました。

I hope we passed the audition.(オーディションに通るといいんだけど)

 

自分は何を試されたんだろう。

たぶん落ちたな(笑)。