「のど自慢」が今年度から生バンドをやめ、カラオケになったそうですね。
20代の短い間でしたが、「のど自慢」の仕事をたくさんさせていただきました。
出場者の募集から、予選会、当日まで、あらゆる現場を経験しました。
「のど自慢」の魅力の一つは、もちろん出場者の熱のこもった歌唱とその背後にある物語。
そして、もう一つは、あの生バンドの演奏だったと私は思っています。
地域によって多少差はありますが、予選会の出場枠は200組ほどだったと記憶しています。
申し込みハガキはその倍くらいきますので、まず厳正に、本当に厳正に抽選をして200組程度に絞ります。
そして、よくある分厚い「歌本」や市販の楽譜から予選参加者の歌う曲を探して、コードやメロディーを拾っていきます。(この辺りは時代が違うので、さすがに最近はもっと効率の良いやり方をしていたかもしれません。)
それらの資料がそろうと、アレンジをしていただき、楽譜を作成します。
予選で歌われる曲すべての楽譜を作ります。(もちろんフルコーラスではありませんが)
予選会は一日がかりの長丁場。
予選といえども、全て生バンドの演奏です。
甲子園で準々決勝の日が一番豪華なように、「のど自慢」の予選会も本当に贅沢な時間でした。
ただ、バンドの皆さんは大変です。
人によっては人生をかけて臨んできますので、ミスの許されない緊張した演奏が一日続きます。
審査を終え、本番の出場者が決まると、あらためてリハーサルをし、音域を確認して、場合によっては転調した楽譜を作成します。
これら、もろもろがあっての生放送・生バンドの演奏です。
だからこその、あのクオリティ。
そして、だからこそコストカットの対象になったんだと思いますが、善悪は別として、もう「別のもの」になっていくことを覚悟しなくてはならないと思います。
全国各地で活動していらっしゃるバンドの皆さんの、その凄腕っぷりが忘れられません。
私自身はギター弾きなので、リハーサルや音合わせ中のギターの方をよく見ていました。
歌謡曲や演歌のバックに回っている時は、もちろん抑制した演奏に徹していますが、リハの合間の指慣らしの際などにサラリと弾くフレーズのカッコいいこと!。
本物のプロの姿を、いつも憧れの目で眺めていました。
超絶テクを隠し、あがりまくっている出場者を優しいグルーブでそっと包み込むような演奏で支える。
1小節先を行ってしまうおじいさんの歌に(おじいさんに恥をかかせないように)いつの間にか、さりげなく合わせてしまう神業。
もう聴くことはできないんですね。
武道館やドームのステージに立つどんなバンドよりもクールな、全国各地の凄腕バンドに花束を。
最高の演奏を、ありがとうございました。