小さな頃から喉が弱く、あまり大きな声が出せないようでした。
喧噪の中では声が通りにくく、難儀します。
居酒屋のようなざわついた場所での会話は苦手で、可能であれば個室に移りたくなりますし、大人数の立食パーティーのようなところでも会話が成立せず、すぐ外に涼みにいってしまい、そしてドロン(笑)するタイプのようです。
聴覚過敏ぎみで、大声で何かを連呼されるのも、かなりの苦痛をもたらします。
幸い(本当は不幸なことなのですが・・・)地元の選挙は無投票になったので、選挙期間中の例のものは回避できました。
本当に大切で必要なものだったら、小さな声でもしっかり聞くのですが・・・。
みんなもっと小声で話してくれる世界だったら生きやすいのに、なんて思ったりします。
そんな私が時折逃げ込むシェルターは、小川洋子さんの「琥珀のまたたき」。
この本を開いている間だけは、ほぼ無音の世界に生きていられます。
文庫本サイズのノイズキャンセラーです。
魔犬の呪いから逃れるため、家から一歩も出ることなく暮らし始めた3人の小さなきょうだい。
ママの禁止事項のひとつ、「大きな声を出さない」を守りながら、静かに、密やかな生活を続けます。
声はやがて消え入るような囁きになり、ほとんど唇が微かに動いているのがわかる程度に小さくなっていくのですが、それでも、心の通った会話をし、その囁きで時には合唱もします。
(この「ほぼ無音の合唱」の美しさ!。いつか、こんな音楽をつくれたら、と思います。)
閉ざされた空間での暮らしを描く、寂しくて悲しくて、少し怖い物語なのですが、それでもこの静謐な世界にいたいと思います。
普段は音楽をかけながら、何だったらギターを抱えながら(笑)本を読んだりするのですが、この「琥珀のまたたき」に向き合う時だけは、すべての音を遮断します。
子ども達の声が聞こえなくなってしまうから。
車の走行音にかき消されそうになると、思わず本に耳を寄せます。
真実は小声でのみ語られる。
小声主義者である私の、座右の銘です。
自分で適当にでっちあげた「ウソ格言」(笑)を座右の銘にしている人も珍しいと思いますが・・・。
大きな声が力を持つ暴力的な世界でひっそりと生きている「小声主義」の私は、本に耳をそばだて、やがてその物語に入り込んでいくことで、何とか心のバランスを保っているようです。