人と栖と

小声で語る 小さな家と本と音楽のこと

宮沢賢治の世界で暮らしたい 小さな家の由来記 4

10代の頃から宮沢賢治の作品に親しんできました。

本だけでなく新潮社の朗読カセットをテープがヨレヨレになるまで聴いたり、アニメ映画の「銀河鉄道の夜」のビデオを50回くらい観たりして・・・。

動物や森の樹々と会話のできる世界がファンタジーとは思えなくなるほど、その世界観が頭の中で育っていました。

 

学生時代から長いこと東北で暮らしていたので、花巻には何度も足を運びました。

研究室のフィールドワークでも花巻を訪れ、地域の古老にインタビューをして、失われつつあるその音韻を記録したりしました。

「寿司」と「獅子」と「煤」の発話を録音したり、その音韻を音声記号で書きとったりするのです。

 

土地探しをする中で、当然のように花巻もその候補にあがりました。
宮沢賢治の世界で暮らしたかったのです。

 

花巻温泉に宿をとって(しっかり旅行も兼ねます 笑)、地元の不動産屋さんに予約をしておいて、随分たくさんの土地を見せていただきました。

近くに美しい川がとうとうと流れていたり、「セロ弾きのゴーシュ」に出てくるような小動物がひょっこり顔を出しそうな林の中だったり、素敵な土地がいくつもありました。

 

ただ、こういう土地の「あるある」ではありますが、敷地の把握の仕方がおおらかですね。

境界杭なんて、たいていありません。

あっても、何かの拍子に抜けてしまって、その辺にころがっていたり・・・。

この辺からこの辺までみたいな感じで。

もちろん後で公図から境界を確定して杭を打ったりするのですが、その公図自体も何だか・・・という感じです。

 

まあ、その辺りは何とかしようということで、秋の木漏れ日の美しい、ある土地を眺めていました。

ああ、賢治さんの世界だなあ、なんて思いながら。

 

広大な敷地の真ん中あたりに、何かがポコッと出っ張っているのに気がつきました。

近くで見てみると石碑のようなものでした。

不動産屋さんにきいてみると、満面の笑みで、

「ああ、それね。江戸時代のお墓ですね。あとで掘って移動しときますから大丈夫ですよ。」

なるほど。掘って移動するから大丈・・・、って大丈夫なのか!

そのまま、不動産屋さんはどこかに行っちゃうし・・・。

 

夫婦で、そのお墓を眺めながら思案の時間が続きました。

しばらくすると、袋から溢れるほどの栗を抱えて、不動産屋さんが帰ってきました。

「こんなに栗が採れますよ!。」

またも満面の笑みなのですが。

確かに秋には毎日栗ご飯が食べられるけど・・・。

 

結局、いろいろあって(というかお墓)断念しました。
栗は、おみやげに持って帰っておいしくいただきました。

はやく秋にならないかな。