人と栖と

小声で語る 小さな家と本と音楽のこと

月と六ペンスと建築 小さな家の由来記 3

折り返し地点を過ぎると、「残り時間」というものを否応なく意識してしまうものですが、若い時分は時間が無限にあるように感じたのと、生来のんびりしているのもあって、随分と遠回りなことを平気でしてきました。

 

福島県三春町に家を建てる計画は、退職のタイミングやら何やらが上手くいかなくて、断念しました。

 

そして退職後は、20世紀の青年らしく(笑)インドに行き、あれこれ考え、建築の道に進むことにしました。

あれこれと言っても、一晩考えただけで決めてしまったのですが・・・。


文学部文学科の卒業ということなど関係なく、いきなり理系の人になりました。

 

今考えれば、理想の土地に理想の家を建てるという夢を叶えるなら、他にもいろいろ方法はあったと思うのですが、学校に入り直して建築の勉強をして(リスキリングですね)、一級建築士になって、自分で設計をする、という途轍もなく遠回りなロードマップを描いてしまいました。

えらく面倒です。

インドのせいです(笑)。

それと、飛行機の中で読んでいた「月と六ペンス」(モームのせいでもあります。

せっかくついた仕事を辞めてしまうのは、果たして意思の力が弱いのか。

意思の力?。だが、そういえば、いかにそのほうが充実した、生き甲斐のある生活だと考えたにしても、三十分やそこいらの考慮一つで、決然と一生を棒に振ってしまうというには、果たして意思の力は要らないものだろうか?。さらにはまた、このいったんの決心を、あくまで悔いないというにいたっては、もう一つ強い意志力が要るのではなかろうか?。

「月と六ペンス」モーム)より 中野好夫 訳

 

土地や不動産のことを知るために、その方面の勉強もして宅建もとりました。

宅建「インテリアコーディネーター」二級建築士一級建築士

 

長かった・・・、そして面倒でした(笑)。

 

そんなこんなで、土地探しの旅は8年程お休みになりました。

無駄だったのか無駄で無かったのか、わかりません。

ただ、もう少し効率の良い方法もあったんじゃないかとは思います。

もう一回繰り返すのは嫌です(笑)。

 

土地探しの再開は、結婚後、東京の生活ももういいかなと思い始めた2005年頃からでした。

人間の中には、ちゃんとはじめから決められた故郷以外の場所に生まれてくるものがあると、そんなふうに僕は考えている。
なにかの拍子に、まるで別の環境の中へ送り出されることになったのだが、彼らはたえず、まだ知らぬ故郷に対してノスタルジアを感じている。
(中略)
そしてむろんまだ見たこともない風物の中、また見も知らぬ人々の中に、まるで生まれた日以来、そこに住みつづけていたかのような心やすさをさえおぼえる。そして、そこにはじめて休息を見出すのだ。

「月と六ペンス」モーム)より 中野好夫 訳