人と栖と

小声で語る 小さな家と本と音楽のこと

家を、庭をapprivoiser(アプリヴォワゼ)する 「星の王子さま」から学んだこと

蚊が出なくなったので、久しぶりに庭のパトロール

4本あったキンメツゲのうち、1本が枯れていました。

そこそこ日も当たるし、水も撒いていたのですが・・・。

 

枯れた一本だけは窓から見えない位置にあったのでした。

ですから、それにまったく気づきませんでした。

そういえば長いことキンメツゲのこと、考えたこともなかった。

 

自分調べの、何の根拠もない定理。

半年間視野に入らず、意識にものぼらなかった植物は枯れる(ことがある)。

 

枯れたキンメツゲも「見られることもないなら、存在してても・・・」みたいな、存在するのをやめたかのような枯れ方でした。

「誰もいない森で倒れる木は音をたてるのか」みたいな、認識論あるいは量子力学的な問いを思いました。

思い出したのは、星の王子さまに出てくる、王子さまとキツネとの会話。

そこでは、おそらく最も重要な単語apprivoiser(アプリヴォワゼ)が登場します。

「君とは遊べないよ。僕はまだapprivoiserされてないから。」

 

長い間、apprivoiser「飼いならす」と訳されてきたようですが、学生時代、フランス語の授業か何かで読んで以来、しっくりこない謎の言葉でした。

「仲良くする」「なじみになる」など様々あるようですが、多分ぴったり当てはまる日本語が無いのでしょう。

 

何度も読むうち、「飼いならす」の部分は自分の中で別のイメージをもって読むようになっていました。

そのイメージは「ずっと気にかけていること」

それから「それで何かを失ったとしても、かけがえのない関係を築くこと」

 

人が住まなくなり、放置された家は朽ちてきます。

庭も、人の手が入らなくなるとすぐに荒れてしまいます。

家も庭も、いつも気にかけていないと、自分の心が離れてしまうと、途端に駄目になってしまいます。

 

愛憎入り混じりつつも、この家や庭をapprivoiserしています。

王子さまが星に残してきたバラを想うように。

 

西日で痛めつけられた外壁や基礎を何度でも補修し、葉が焼けたヒメシャラに、できるだけの手当てをします。

心無い工事で綻びのある部分を、どんなに手間がかかっても執念で直し、取替え、本当の自分の家に変えていきます。

時間をかけます。

時間をかけるということは、命を使うということ。

星の王子さま」文中の表現を借りて言い換えれば、

私が、私の家と庭のために失った時間こそが、私の家と庭をかけがえのないものにしているのです。

 

「深夜に聴く曲は速い」問題

深夜にふと目が覚めて、あるいは起き抜けの早朝、手元のラジオやスマホで音楽を聴くと、すごくテンポが速いですよね。

・・・・・速くありませんか。

・・・・・ここは、一旦速いことにして・・・(笑)

ただ仲間が欲しいだけの人。

 

ずっと昔からそのようでした。

音楽はひどい時には1.5倍速くらい。

音楽だけでなく、目覚まし時計の秒針のカチカチも、とんでもないテンポで鳴っておりました。

何十年も、深く考えることもせず、夜中はやることもないから時間も「巻き」で進んでいる、ということにしていました。

世界を雑にとらえています。

 

先日、奥様に普通そうなんですかと聞いてみました。

ポカンとしていました。

そういえば、ただの一度も人に話したことが無かったのでした。

 

はじめてネットで検索してみました。

深夜 音楽 速い

late night  music  feel  faster

 

世界には同志がたくさんいました。

その筋では常識である風でもあります。

「そんな奴おらへんやろ」(©大木こだま・ひびき)とか「ちょっと何言ってるか分からない」(©サンドウイッチマン)みたいな意見もありましたが、その辺りはネットなので。

 

どうやら日中と深夜の心拍数脳の処理能力の差によるものという説が優勢のようです。

ライブではテンポが速くなる(心拍数が上がって曲が遅く感じるので演奏が速くなる)などもその一つだそうですが・・・、それはわかるのですが自分の場合、それとは少し違うような・・・。

なかにはきちんとした論文などもあって、いろいろあたってみました。

心当たりのあるもの無いもの様々。

 

そこで、一週間ほど己の体で検証してみました。

眠りが浅いので夜中や朝方何度も目を覚ますのです。

自分調べのノーエビデンスですが、何となくわかってきました。

 

結論(個人の感想です)。

自分の場合、副交感神経優位の状態では速く感じ、交感神経優位の状態では平常

リラックスしていると速く感じるということですね。

 

春先にもう一度確認したいと思いますが、花粉症のモーニングアタックのやってくるタイミングの辺りでスピードが切り替わっていました。

睡眠中の副交感神経優位の状態から、起床時の交感神経優位の状態に切り替わる際に「モーニングアタック」はやってきますね。

・・・当たり前のように言ってますが(笑)、花粉症の方にはよくわかっていただけると思います。

夜中に目覚めた時から、あるいは朝方目を覚ました時から10分から15分後くらい、その「アタック」が訪れるタイミング辺りで、曲のテンポが平常に戻るのです。

あくまでも自分の場合ですが。

 

時空が歪んでいるのではないか、はたまた頭が・・・、などと心配しましたが、おそらくこれは生理現象のひとつ。

これからは深夜・早朝の、ライブバージョンみたいなアップテンポになった曲を積極的に楽しみたいなと思います。

 

まるで世界の役に立たない報告でした。

 

ところで、速く感じる人とそうでない人が同じ曲を聴いている時、そこに流れている時間はどうなってるんだろう?。

また、新たな疑問が・・・。

「地下鉄の電車はどこから入れたんでしょうね」(©春日三球・照代)くらいに、それを考えるとまた一晩中寝られなくなってしまいます。

姉の形見のメトロノーム

安価なものですが、ついテンポにこだわってしまう私の宝物。

悲しい時にそっと始まった家づくりがありました

ハウスメーカーさんのCMは夢に溢れていますね。

若いパパ、ママと可愛いお姉ちゃんと弟さんが白い朝日を浴びて幸せそうです。

実のところ、家づくりは思ってもみなかった困難に直面したりして、つらいこともあったりします。

ですから、出会いから引き渡しまで、できるだけそんな幸福のイメージのなかで家づくりを経験できるように、手を尽くしてくれるハウスメーカーさんのお仕事は、それをサービス業と捉えても大変価値のあることだと思っています。

わざわざ辛い思いをする必要はありませんからね。

困難を優しくオブラートで包んで、可視化しないというのもプロの大切な仕事かと思います。

 

私の場合は自分が建築士で、かなりイレギュラーな家づくりをしているので、もちろん自分を守ってくれるそのような優しいオブラートはありません。

そのうえ、体調が良い時でないと書くことはもちろん、思い出すことも苦痛なほど、次々とやってくる不幸と周囲の無理解や裏切りの中で、誰にも祝福されない塗炭の苦しみの中での家づくりでした。

 

娘の小学校入学に間に合わせたい。

ただただ、それだけの理由でがむしゃらに図面を描いていました。

 

思い通りの設計や施工ができるはずもなく、夢に描いていたプランの半分も実現できていません。

竣工後も、見るのも嫌なくらいこの家を憎んでいて、出かけて帰宅するときなど、この角を曲がったら全部無くなって更地になっててくれないかな、なんて本気で思っていました。

できることなら、一からやり直したいと。

 

暗いトーンの文面ですみません。

 

ところが、です。

それから9年近くたって、何故かはわかりません、この家に対して少し愛おしさが生まれてきているんです。

「幸先」とか「縁起」とか「始め良ければ」みたいな言霊に苦しむことは少なからずあるのですが、それでも、悲しみのさなかに建てたこの家が愛おしくなりつつあるんです。

 

そんなことを考えつつ、ぼんやり天井なんかを眺めながら、学生の頃から大好きな、浅香唯さんの名曲「セシル」を聴いていました。

 

恋は楽しい時より 悲しい時に

そっと始まった方が 長く続くね

 

「セシル」浅香唯  作詞 麻生圭子 作曲 NOBODY

 

・・・たぶん、これです。

上手く説明できません。

でも、これなのです。

 

悲しい時にそっと始まった家づくり。

何もオブラートに包まない、むき出しで体験した家づくり。

涙を流しながら描いた図面。

だからこその、強さもあるのだと思います。

youtu.be

まとまりの無い文になってしまいました。

でも、もし必ずしも恵まれた状況ではない中で家づくりに向き合っている方がいらしたら、

きっと大丈夫ですよ!。

もしよかったら「セシル」を聴いてみてください。

多くの方と同じように、私もこの曲に救われた一人です。

 

戦争の親玉 化学反応を起こした「逆替え歌」

「メロディーはそのままで歌詞を替えて歌う」のが替え歌ですが、その逆の、「歌詞はそのままでメロディーを替えて歌う」のは何て呼ぶんでしょうか。

それも替え歌なんでしょうか。

逆替え歌かな?。

 

そんな「逆替え歌」の傑作が、レオン・ラッセル「戦争の親玉」(Masters of War)

 

「戦争の親玉」(Masters of War)ボブ・ディランの名曲。

youtu.be

Masters of War
       Bob Dylan

Come you masters of war
You that build all the guns
You that build the death planes
You that build all the bombs
You that hide behind walls
You that hide behind desks
I just want you to know
I can see through your masks

 

レオン・ラッセルは、その名曲の歌詞を別のメロディーにのせて歌いました。

1970年発表のファーストアルバムに収められていましたが、当局のクレームがついてしばらくお蔵入りになっていました。

この歌詞をあのメロディーにのせる」という一つの操作が化学反応を起こして、これほどの力を持つなんて。

大昔、はじめてこれを聴いた若造は、創造の持つ底知れぬ力を信じるようになったのでした。

音楽や詩に説明なんていりませんね。

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メディアがつくる歪んだ情報空間。

ともすると思考停止をしてしまいます。

そんな時は、繰り返しこの曲を聴いています。

あのクリスマスソングはもう響かない

この夏、自分のなかでは大きな事件があって、子どもの頃からのアイドル、憧れていたミュージシャンのリスナーをやめました。

40年以上の時間とたくさんの思い出。

そんな日が来るなんて思ってもいなかったけれど、一瞬のことでした。

 

「推し」という言葉もありますが、自分の場合、一人を好きになりすぎるのは大きな負担になっていました。

あんまりおまえさんがだれかを崇拝したら、ほんとの自由はえられないんだぜ。
 

 トーベヤンソンムーミン谷の仲間たち」 春のしらべ より  山室静 訳

スナフキンの言うとおり!。

 

CD棚の一軍スタメンの場所に大きな穴が開きましたが、3か月の間に少しずつ、忘れていた素敵なアルバムたちで埋まっていきました。

今は何だか爽やかな気分です。

自由です。

 

1983年以降はじめて、あのクリスマス(失恋)ソングが響かない冬を迎えます。

 

でも、最高のクリスマスアルバムやクリスマスソングたちが手元にあったのでした。

クリスマスソングって大好きです。

ポリコレ的な言い方だと「ホリデーソング」なんだろうけど、もう面倒だからクリスマスソングでいいや。

楽しくてキラキラしていて幸せ感の固まり。

クリスマス自体にはそれほどの思い入れはないけれど、それでもクリスマスアルバム、クリスマスソングには特別の思いがあります。

 

特に、「A CHRISTMAS GIFT FOR YOU

ハル・ブレインのドラム

ロニー・スペクターやダーレン・ラブの大迫力のボーカル

ジャック・ニッチェのアレンジ

フィル・スペクターのプロデュースワーク

ポップスの、ロックンロールの教科書のような奇跡のアルバム。

youtu.be

youtu.be

長くなってしまいそうなので、またあらためて。

冬なので、クリスマスソングのことは少しずつ書いてみたいなと思っています。

ニュースから一旦離れて、自分のご機嫌取りを

うちはテレビがないので、マスメディア的なものはラジオのみです。

夕飯の時など、ラジオをつけているのですが、恐ろしいニュースがはじまると速攻でパチンと消します。

愛川欽也さんの「ハイ、消えた!」(「なるほど!ザ・ワールド」より)並みに速いかもしれません。

 

全員、小心者です。

音声でも恐ろしいのにテレビの映像なんて絶対無理です。

あれを見ながらご飯を食べられるのかな。

学生時代の友人で、バイト先のレンタルビデオ屋でホラーを見ながら弁当を食べてる奴がいました。

慣れるのかな。

 

ネットがあるので世界中の情報を知ることができます。

深く理解するためには、信頼できるジャーナリストの本を読んだり、話を聞いたりしています。

ある程度は把握しているつもりです。

それで十分です。

演出された「報道」に晒されていると、いつの間にやらどこか良からぬ所に連れていかれそうです。

 

それでも、気が滅入ります。

誰かが、「自分の機嫌は自分でとる」と言っていましたので、そうすることにしています。

私の場合は、音楽と美しい音が一番の「おくすり」です。

スレイベル
チャーチベル
グロッケン
カスタネット
それから、手拍子とコーラス

こどもの頃から、こんな音の入っている曲が大好きでした。

おそらく、敬愛するブライアン・ウィルソンの影響です。

つらいときは、ザ・ビーチ・ボーイズからブライアンのソロまで、ひたすら聴いて自分を癒しています。

youtu.be

自分で自分の「おくすり」を調合して処方したりもします。

 

楽しくて幸せになれるホリデイソングをつくりたいと思いました。

とりあえす、先日つくったものをリサイクルして尺を3分に。

元気になったら、良い感じのメロディーと詞をつくって完成させるつもりです。

ブライアンのような魔法みたいなコーラスアレンジができたらいいな。

一旦デモをつくるために、いつものでたらめな英語でつくった詞を「音読さん」で読んでもらって、ダミーでのせました。

ダミーですが、「空から降ってくるものは素敵なものであってほしい」という願いを込めました。

 

SNOWSONG

Something falls from the sky
It's falling from the winter sky
It's got to be snow, right?
Only fun and wonderful things fall from the sky
All the children know it
And we're singing a snow song

Something falls from the sky
It's falling from the spring sky
It's got to be cherry blossoms, right?
Only fun and wonderful things fall from the sky
All the children know it
And we're singing a sakura song


デモの音源です。

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光のオルガン  宮沢賢治「告別」

うっかり醜悪な茶番をみてしまいました。

記者会見とされてはいましたが、

確かにそれは茶番劇でした。

 

楽しいこと、美しいもの、

音楽とかエンターテインメントってなんだっけ・・・。

 

すっかり具合が悪くなってしまいました。

これが嫌でテレビを捨てたのに。

 

自分のための「おくすり」を処方し、調合しました。

 

「おくすり」は、宮沢賢治「告別」

 

同じく賢治の「農民芸術概論綱要」と同様、

頭が混乱してしまった時の道標。

 

宮沢賢治が花巻農学校の教師だった頃、

大変な音楽の才能を持つ沢里武治という生徒がいました。

ところが沢里は農家を継がなくてはならず、音楽の道を断念。

沢里が卒業する年、

賢治も「本当の百姓」になるために、教師の職を辞します。

 

「告別」は、その際に、沢里や生徒たちにあてて書いた詩です。

 

宮沢賢治

春と修羅 第二集 より

告別


おまへのバスの三連音が

どんなぐあひに鳴ってゐたかを

おそらくおまへはわかってゐまい

その純朴さ希みに充ちたたのしさは

ほとんどおれを草葉のやうに顫はせた

もしもおまへがそれらの音の特性や

立派な無数の順列を

はっきり知って自由にいつでも使へるならば

おまへは辛くてそしてかゞやく天の仕事もするだらう

泰西著名の楽人たちが

幼齢弦や鍵器をとって

すでに一家をなしたがやうに

おまへはそのころ

この国にある皮革の鼓器と

竹でつくった管とをとった

けれどもいまごろちゃうどおまへの年ごろで

おまへの素質と力をもってゐるものは

町と村との一万人のなかになら

おそらく五人はあるだらう

それらのひとのどの人もまたどのひとも

五年のあひだにそれを大抵無くすのだ

生活のためにけづられたり

自分でそれをなくすのだ

すべての才や力や材といふものは

ひとにとゞまるものでない

ひとさへひとにとゞまらぬ

云はなかったが、

おれは四月はもう学校に居ないのだ

恐らく暗くけはしいみちをあるくだらう

そのあとでおまへのいまのちからがにぶり

きれいな音の正しい調子とその明るさを失って

ふたたび回復できないならば

おれはおまへをもう見ない

なぜならおれは

すこしぐらゐの仕事ができて

そいつに腰をかけてるやうな

そんな多数をいちばんいやにおもふのだ

もしもおまへが

よくきいてくれ

ひとりのやさしい娘をおもふやうになるそのとき

おまへに無数の影と光の像があらはれる

おまへはそれを音にするのだ

みんなが町で暮したり

一日あそんでゐるときに

おまへはひとりであの石原の草を刈る

そのさびしさでおまへは音をつくるのだ

多くの侮辱や窮乏の

それらを噛んで歌ふのだ

もしも楽器がなかったら

いゝかおまへはおれの弟子なのだ

ちからのかぎり

そらいっぱいの

光でできたパイプオルガンを弾くがいゝ

「告別」の朗読動画を(自分のために)猛スピードで制作し、何十回も聴きました。

「いやにおもふ」情報は捨ててしまおう。

デトックスです。

 

朗読は奥様にお願いしました。

ほぼ初見のファーストテイクです。

感心します。

うっすらと流れているピアノは、以前、これも自分用につくったピアノの練習曲に手を入れて尺を合わせたものです。

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気があること まだ知られたくない  平 兼盛

百人一首関連の逸話でよく紹介されるものに、

天徳4年(960年)、村上天皇内裏歌合(だいりうたあわせ)のエピソードがあります。


平 兼盛(たいらのかねもり)「忍ぶれど・・・」

壬生忠見(みぶのただみ)「恋すてふ・・・」

この2首が競ったときのものです。

お題は「忍ぶ恋」

 

百人一首40番歌

【現代語訳】

隠しているつもりだったのに

顔に出てしまっていた

私の恋

恋をしているの?

人に問われるほど


百人一首41番歌

【現代語訳】

私が恋をしている

そんな噂が

もうたってしまった

人知れず

そっと想い始めたのに

 

甲乙つけがたいこの2首を前に判者の藤原実頼も判定がつけられず、

引き分けにしようとしたそうです。

 

ただ、村上天皇の方をチラっと伺うと、

小声で「忍ぶれど・・・」とつぶやいていたので、

平 兼盛の勝と決まったといいます。

 

ほんとかいな、と思いますが、

そういうことになっています。

 

負けた壬生忠見の方はショックで食事も喉を通らず、

亡くなってしまったと言われていますが、

こちらは事実ではないようです。

 

それはさておき、本当にどちらのうたも、

初々しさ瑞々しさの溢れた名歌だと思います。

 

百人一首の選者、藤原定家

両歌を40番歌、41番歌と並べていますね。

 

松田聖子さんの名曲「P・R・E・S・E・N・T」にこんな歌詞があります。

気があること まだ知られたくない

 

熱い気持 読まれそうでこわい

 

 松田聖子 「P・R・E・S・E・N・T」 より(作詞 松本隆 作曲 来生たかお

10世紀も21世紀も変わりませんね。

時空を超えていますね。

 

百人一首の和歌に音楽をつけるという謎作業。

41番歌の方は以前つくりましたので、

今回は40番歌の方を。

ひとりで酔狂な歌合をしました。

 

密かに恋をしているのが、つい顔に出てしまった

「うれしはずかし」の気持ちを音で表現してみようと取り組んでみました。

 

そういう季節はとうに過ぎた身(50代男性)ではありますが、

頑張ってそんな初々しい気持ちになって音をつくってみました。

 

制作自体は一日でやっつけてしまったのですが、

ピアノの練習に一週間かけました。

 

弾けもしないのに、ピアノ主体のアレンジにするからいけないのですが・・・。

 

それから、少しマニアックになりますが、

終盤ニッキー・ホプキンス※風のピアノを急に入れたくなってしまったので、

その10秒間のために2日間ほど猛練習しました。

※名盤のセッションに数多く参加しているピアノ職人

 

己(建築士です)は図面も描かずに何をやってるんだとも思いますが、

あまり深く考えないようにしています(笑)。

 

朗読は奥様にお願いしました。

英語部分は「音読さん」の読み上げです。

youtu.be

以前つくった41番歌です。

youtu.be

いままでの謎作業の再生リストです。

youtube.com

 

トレジャー・ヴォイス  松本伊代さんのセンチメンタル・ジャーニー

先日、近くで松本伊代さん、早見優さん、森口博子さんのコンサートがあったので行ってきました。

いかにも「ふらっと寄ってみた」みたいに書いてますが、チケット発売日の発売時刻に時報を聞きながらenterキーを叩いて予約しました(笑)。

 

知り合いに見つかったらちょっと恥ずかしいので、客席の照明が落ちるまで、普段はあまりしないマスクをつけて、下を向いていましたよ。

お三方ともいつまでもお美しく、さすがの歌唱力なのですが、私は特に松本伊代さんの歌声が大好きです。

筒美京平さんも愛した「トレジャー・ヴォイス」ですね。

はっきり言って美声ではないが、実にユニークな響きのある声、ちょっと甘えっぽく、少年的でもある伊代さんの声が私は大好きです。

『真夏の出来事』を唄った平山三紀(現・平山みき)の低くブツブツ切れる様な声、少年時代の郷ひろみの妙に鼻に抜ける声と共に、私の好きな三大ヴォイスのひとつです。

 

筒美京平

いやいや、とんでもない「美声」です。

自分が人並外れた悪声なので、男女問わず美しい声の人には憧れます。

堀ちえみさん、小泉今日子さん、三田寛子さん、早見優さん、中森明菜さん、石川秀美さん、そして松本伊代さん。

花の82年組(伊代さんのデビューは正確には81年10月)とはよく言われますが、本当にすごい時代だったんだなとあらためて思います。

 

デビュー曲は名曲センチメンタル・ジャーニー(作詞:湯川れい子 作曲:筒美京平)ですね。

「伊代はまだ16だから」

歌い手の名を堂々と入れた斬新な歌詞が、この曲を永遠の名曲たらしめている気がします。

伊代さんがこの曲を歌えば永遠の16歳です。

 

16歳って特別な年齢なんですね。

Sweet Little Sixteen

You're Sixteen (You're Beautiful, and You're Mine)

Happy Birthday Sweet Sixteen 

16歳をうたった名曲は世界中にありますね。(17歳もたくさんありますが)

でも、「センチメンタル・ジャーニー」は、私の中では「16歳名曲ランキング」の第1位です。

 


センチメンタル・ジャーニー」のイントロ直前のMCが素敵でした。

 

皆さんも一緒に16歳になってくださいね。恥ずかしがらないで!。・・・一番恥ずかしいのは、私ですっ!

 

2021年、オリジナルオケにヴォーカル部分を新録したバージョンです。

youtu.beデビュー当時(お金をとる)放送局では「個人名を入れたら宣伝になる」みたいな謎の言いがかりをつけて、「まだ16だから」に替えさせていたことをご存じでしょうか。

宣伝も何も・・・、本人が出て歌ってるのにって思うのですが、ちょっとあの時代の狂気を感じますね。

「真紅なポルシェ」→「真紅なクルマ」もありましたしね。

 

色・サクラブレンド 光のどけき春の日に

ようやく朝晩の風に秋の気配を感じるようになってきた今日この頃。

春のうた、桜のうたの話題は季節外れも甚だしいのですが、紀友則の桜の名歌に音をつけてみました。

 

考えてみたら、今年の春、百人一首のなかの春のうたにあわせて曲を作る作業を集中的にやろうとしていたのですが、花粉症が酷く、それどころではなくなって放置していたのでした。

季節外れではありますが、春を待っていたら、また花粉症が・・・ということになりそうなので、今取り組んでいます。(建築士なのですが・・・)

もう、ここは、南半球ということで・・・。

百人一首 33番歌

 

ひさかたの

光のどけき

春の日に

しづ心なく

花の散るらむ

  紀 友則  古今集


【現代語訳】

陽の光がのどかに差す

こんな春の日に

どうして心せわしく

花は散ってしまうのだろう

 

【適当英訳】(たぶん間違いあり)

On this spring day 

when the sun shines peacefully

Why do the cherry blossoms fall 

in such a hurry?

 

紀友則三十六歌仙のひとり。

紀貫之のいとこですね。

光のどかな春の日に散ってしまう桜。

そんな花への哀惜がにじむ美しいうたですね。

 

本歌取り」という訳ではないのですが、春の気分に溢れた中山美穂さんの色・ホワイトブレンドのAメロ冒頭部分をこっそりと織り込みました。

「リボンが風に踊る」のところですね。

こっそりすぎて、「ウォーリーをさがせ」みたいになってます。

 

朗読は奥様にお願いしました。

英語部分は「音読さん」の読み上げです。

 

春と言いつつ、体は夏バテぎみで、つくるもののテンションが低めです・・・。

youtu.be

大学受験のために宿泊していた仙台のホテル。

窓を開けると、向かいのビルに巨大な中山美穂さんのお顔が。

資生堂’86春のキャンペーンでした。

そのテーマ曲が「色・ホワイトブレンド」。

試験中も頭の中でずっと流れていたような気がします。

それ以来、この曲は私の中で思い出の、春のテーマ曲となりました。

3月の仙台ですから、まだまだ寒い時期ではありましたが。

ちなみに、私の桜はなんとか、かろうじて散らずに済みました(笑)。

ふりゆくものは わが身  帰り道のうた

夏の疲れや何かでぼんやりしており、図面も描かずに、いつも読んでいる百人一首の本を眺めたりしていました。

 

百首のうたは大きく、「月のうた」や「春夏秋冬のうた」、「恋のうた」などと分類できますが、「花のうた」もいくつかありますね。

夏から秋に向かうこの時期に、全く季節外れではありますが・・・。

私は、9番歌である小野小町

 

花の色は

移りにけりな

いたづらに

わが身世にふる

ながめせし間に

 

このうたが大好きなのですが、ずっと後ろの方(96番歌)、入道前太政大臣の名歌、「花さそふ」をうっかり忘れていました。

 

花さそふ

嵐の庭の

雪ならで

ふりゆくものは

わが身なりけり

 

小野小町のうたと同様、哀しみを伴った述懐のうたで、「降る」「経る、古る」を掛けているのも似ていますね。

 

【現代語訳】

桜の花を誘うように散らす

嵐の庭には

花が雪のように降るけれど

それは雪ではなく

きっと古(ふ)りゆく私自身

 

超訳英語】(掛詞を訳すのをあっさり断念して、主旨のみ意訳しました。)

Storms scatter cherry blossoms.

As if inviting.

It is like snow.

But really,

 it could be me.

 

まだ来し方を振り返るような年齢でもないんでしょうが、それでも、このうたには何かぐっと来るものがありました。

きっと、疲れているんです・・・。

 

いつものように音楽をつけてみたのですが、それこそ疲れているからか、それともこのうたの心象風景を眺めすぎたのか、少しばかり脱力した音になりました。

楽器の数も音数も絞りました

 

うたの内容とは少し離れるのですが、心に浮かんでいたイメージは何故か、「帰り道」のようなものでした。

それと、これまた何故か「旅先から届いた寅さんの手紙を読むさくらさんの声」が頭から離れなくなってしまい、結果そのサントラのようでもあります。

 

末筆ながら、

あなた様の幸せを

遠い他国の空から

お祈りしております。 

 

車 寅次郎 拝

 

良いですねえ。

エンディング感が漂っています・・・。

 

っていうか自分、大丈夫か!

和歌から離れてしまってゐるぢゃないか。

まあ、いいか。

きっと、夏の疲れです。

 

それでも、いつものように朗読は奥様にお願いしました。

英語部分は「音読さん」の読み上げです。

youtu.be

風立ちぬ /美しい村 憧憬   小さな家の由来記7

家を建てるための土地探しの旅。

文学作品の舞台になった憧れの地をいくつかまわりました。

そんなエリアの一つ、浅間山山麓八ヶ岳山麓は随分たくさんの土地を見させてもらいました。

 

これだと思う理想の土地にも出会いました。

敷地の左右と奥は林の状態のまま、未舗装の可愛らしい道を挟んだお向かいには素敵なお家が建っています。

敷地にあわせた簡単な図面(今住んでいる家はその時のプランをもとに設計しました)も描いて、そこでの生活をあれこれ思い描きました。

 

不動産屋さんによると、

「作家の〇〇さんの奥様がご健在で、お向かいにお住まいですよ。」とのこと。

胸が高鳴ります。

これこそ運命なのでは・・・。

その作品世界に憧れてこの地を歩いているんですから。

 

でも、どうして自分はこんななんだろう、と思います。

 

一瞬の後、急に怖気づくというのか尻込みするというのか、スルスルとムーンウォークのように気持ちが後退してしまいます。

本当は高揚しているはずなのに、ここで人並外れた自己評価の低さを発揮してしまいます。

 

自分などがご近所になるわけにはいかない・・・。

 

その作家の生涯と作品とこの地は溶け合ってひとつの世界を形作っている。

その世界に対して抱いている強い憧れ。

 

上手く例えられなさすぎにも程があるのですが、よくタイムマシンで過去に行ってあれこれすると現在が変わってしまうプロットがありますよね。

あんなかんじで、その世界のほんの微細な部分であっても、そこに自分が関わって何かしらの影響を与えてしまうと、自分が憧れていた世界が変質してしまうんじゃないかという・・・。

随分拗らせています。

己の扱いが面倒です・・・。

 

それで、美しい村は美しい村のまま、心の中にそっとしまっておくことにしてしまったのでした。

どなたかがおっしゃっていたのですが。

大阪万博で何時間も並んで「月の石」を見たけど、がっかりしたと。

何だ毎晩眺めてる月の方が美しいじゃないか!。

 

裸の大将放浪記」で、山下清画伯が富士に憧れ、登ってみるのですが、その荒涼とした風景に深く傷つくシーンがありました。

 

憧れは遠くで眺めているからこそのもの。

ちょっとだけ後悔もありますが、あれで良かったんだと思うことにしています。

 

月のうた

未だに月の運行システムを理解しておりません。

のんきにお月見などしていますが、昨夜あっちにあったのに、今夜はこっち!などと、その都度驚いています。

奥様も同様のようです。

 

一度理科の教科書を読めば済む話なのですが(笑)、ここは月の神秘として、センス・オブ・ワンダーのまま、とっておこうかなと思っています。

家族の中では娘が最も月を理解しています。

現役のリケジョJCなので(笑)。

 

時間が無限に思える時期はとうに過ぎたので、そろそろ自分の好きなもの、大切なものを整理して把握しておこうと思うようになりました。

 

それで、好きな「月のうた」って何だろうと考え始めたのですが、やたらとありますね。

それでも、なんとか3つに絞りました。

たぶん明日選べばまた変わります(笑)。

 

Arthur's Theme (Best That You Can Do)  (Christopher Cross, Burt Bacharach, Carole Bayer Sager, Peter Allen)

 

「月とニューヨークの隙間に捕らわれてしまったなら」なんて、なんか素敵です。

 

When you get caught between the Moon and New York City

I know it's crazy, but it's true

If you get caught between the Moon and New York City

The best that you can do

The best that you can do is fall in love

youtu.be

 

Polka Dots & Moon Beams ( J. Burke ,  J.van Heusen)

 

名演・名唱が数多くありますが、 今の気分はコニー・スティーブンスのバージョン。

歌詞もメロディーも素敵です。

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The Moon Is A Harsh Mistress  (Jimmy Webb)

 

最愛の「月のうた」。ジミー・ウェッブ作の名曲。

タイトルはロバート・A・ハインラインSF小説と同じですね。

邦題は月は無慈悲な夜の女王

ハインラインにタイトルの使用許可をとったとのことですが、小説の内容と歌詞はあまり関係なさそうです。

 

これも多くのバージョンがあるのですが、どれもあまりヒットしていない謎の大名曲。

ご本人のセルフカバーも素晴らしいのですが、最も美しいと思う、ラドカ・トネフのバージョンを。

歌もピアノも美しすぎます・・・。

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本当はOzzy OsbourneBark at the Moonも好きなのですが、PVが怖いので貼りません(笑)。

和歌に曲をつけたものをいろいろとつくったのですが、「月のうたMIX」的なものをつくってみました。

ただ、つなげただけですが・・・。

Polka Dots & Moon BeamsThe Moon is a Harsh Mistress本歌取りで微妙に織り込んでいます。

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月前の恋

「今はもう秋」ということにさせていただきました。

月を愛でたりなどしています。

気づけば虫の声。

ラウドな蝉丸たちも輪廻の輪に帰っていきました。

 

もう秋なので、「月のうたのうた」をつくろうと思いました。

西行法師「嘆けとて」

特に季節は示されていないので秋の月とは限らないのですが、秋ということにしました(笑)。

百人一首 86番歌

 

嘆けとて

月やは物を

思はする

かこち顔なる

わが涙かな
  
  西行法師  千載集

 

【現代語訳】

嘆けと言って

月は物思いをさせるのかな

いや、そんなことはないよね

流れる涙を月のせいにしている

 

【適当英訳】(たぶんいろいろ間違っていますが、気にしません!)

Is the moon telling me to be sad and making me pensive?

No, I don't think so.

It's really because of love.

My tears as if they are flowing because of the moon.

 

千載集の詞書に「月前恋といへる心をよめる」とあります。

「月前恋」というお題。

月の前で恋を詠んだということですね。

月前恋 月前の恋

美しい言葉ですね。


詠んだのは西行法師なので、もちろん男性が女性を想って詠んだうたなのですが、私にはなんとなく女性のうたのように感じて、女性が詠んだということにさせていただきました(笑)。

 

数日、平安末期の女性になりきってガサゴソとやっておりました。

 

少し時間をかけて、丁寧に作編曲、制作をしました(2日くらいですが・・・)。

いつもはO型らしい適当な演奏や打ち込みなのですが、今回はピアノ(といっても自分がつくったものなので、たかが知れているのですが)の練習も真面目にやって、メトロノームにあわせてきっちり弾きました。

 

私は平安女性でした。

エンパスぶりを発揮しすぎて、21世紀の50代男性に戻るまでに少し時間を要しました(笑)。

 

適当英語の部分は「音読さん」で読み上げてもらいました。

日本語の朗読とフェイドアウト部分のコーラスは奥様にお願いしました。

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今までつくったものの再生リストです。

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逢えたら長生きしたくなった  藤原義孝先輩の純情

いきなりで何ですが、私どうしても

「親子丼」という名称を受け入れることができないんです。

料理の名前なんかなんでも良いだろ、というのも確かにそうかもしれません。

 

でも、いくら何でもひどすぎませんか。

そうでもないですか。

 

いずれにしても、こんな変てこな事でひとり苦悩している自分っていったい、と思っていたのですが・・・。

 

今昔物語集藤原義孝(ふじわらのよしたか)のエピソードにこのようなものがありました。

 

酒の席で鮒(ふな)の子膾(なます)鮒にその卵を和えた膾ーが出された際、義孝は涙ぐんでその場を立ち去ったというものです。

親の肉にその子を和えたものを食べるなどという惨いことはできない、ということですね。

 

1000年以上も前ですが、素敵な先輩がいました。

 

エリートの家系に生まれ容姿端麗。

でも、何より仏道に熱心で信仰心に篤く、はやくから出家を願っていた義孝先輩らしいエピソードです。

これからという、20歳の若さで天然痘に倒れてしまった先輩。

 

そんな敬愛する義孝先輩のうた。

いわゆる「後朝(きぬぎぬ)のうた」ですね。

百人一首 50番歌

君がため

惜しからざりし

命さへ

長くもがなと

思ひけるかな
  
  藤原義孝 後拾遺集

 

【現代語訳】

あなたに逢うためなら

惜しくないと思っていたこの命も

逢うという願いが叶った今では

長くあってほしいと思う

 

あなたに逢えるなら死んでも構わない

なんて思ってたのに

逢ってみたら幸せすぎて

死にたくなくなっちゃった

 

こんな感じですね。

ひたむきさが愛らしいですね。

純情な感情ですね。

 

義孝先輩の純情を表現したく、音をつくってみました。

 


建築の勉強をしていた頃、時々「即日設計」という課題がありました。

一日で一軒の家を設計して図面を仕上げるのです。

それを急に思い出して、音を「即日制作」してみようと思ってしまいました。(思ってしまったら、やってみることにしています)

 

曲をつくって、アレンジして、演奏・打ち込みをして・・・、と半日くらいでやっつけました。

直観と瞬発力のみ。

粗はあるのですが、後ろは振り返りません(笑)。

 

和歌の世界らしく本歌取りをするという課題も己に課しています。

「あなたのそばに居たい」ということで、カーペンターズの「Close to You」のアレをねじ込みました。

 

朗読は奥様にお願いしました。

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